スウェーデンの病院への就職は決まらず、家族の北欧留学計画は終わりました。
私は思いました。
「これで、しばらく留学の話はないだろう」
甘かった。
一度留学のスイッチが入った妻は、そんな簡単には止まりません。
妻の頭の中は、すでに次の留学先でいっぱいでした。
妻の留学スイッチはOFFにならない
スウェーデンが難しいなら、次は英語圏。
妻はすぐに、新しい留学先を探し始めました。
しかし、私たちは夫婦だけではありません。
子どもが3人いる、家族5人です。
飛行機代は5人分。
家賃も家族向け。
食費も5人分。
学校へ通うなら、子どもたちの学費も必要になります。
何をするにも、だいたい金額の前に「×5」がついてきます。
考えただけで恐ろしい。
働かないと、お金は減り続ける
さらに大きな問題が、現地で働けるかどうかです。
若ければワーキングホリデーという選択肢もあります。
しかし、私たちには使えません。
40代の夫婦が子どもを3人連れて海外へ行き、働かずに暮らす。
当然ですが、お金は減り続けます。
寝ていても家賃がかかる。
息をしていても生活費がかかる。
子どもたちは毎日お腹がすく。
「安く留学できて、家族で住めて、できれば働ける国はないのか?」
そんな都合のよい国を探す日々が始まりました。
妻が持ってきた次の候補は「マルタ」
ある日、妻が新しい留学先の候補を持ってきました。
「マルタはどう?」
マルタ?
どこ?
マグロのところ?
私の中にあるマルタの知識は、テレビで見たマグロくらいでした。
国なのか、街なのか、島なのかも分かりません。
調べてみると、マルタはイタリアの近く、地中海に浮かぶ小さな島国でした。
しかも英語が通じる。
ヨーロッパにも近い。
写真を見ると、海はきれいで、街並みも美しい。
突然、マグロのイメージしかなかったマルタが、魅力的な留学先に見えてきました。
ヨーロッパでサッカーをしたら、うまくなる?
マルタに住めば、イタリアも近い。
ヨーロッパのほかの国にも行きやすそうです。
そして、長男はサッカーが好きです。
ヨーロッパでサッカーをしたら、ものすごくうまくなるのではないか?
海外のチームに入り、現地の子どもたちと一緒にプレーする。
もしかすると、才能が開花するかもしれない。
将来はヨーロッパのクラブチームへ。
日本代表に選ばれる可能性だってある。
マルタについて調べ始めて数日。
すでに親の妄想だけは、ワールドカップまで到達していました。
現実は「子ども3人分の学費」
ところが、夢のあとには必ず現実がやってきます。
マルタへ留学する場合、子どもたちはインターナショナルスクールへ通うことになりそうでした。
上の子と真ん中の子は学校。
一番下の子は、まだ保育園の年齢です。
マルタではキンダーガーデンになるのか?
そもそも、どこへ通わせればよいのか?
そして、最大の問題は学費です。
インターナショナルスクールの学費が、子ども3人分。
授業料だけではありません。
入学金、教材費、制服代、送迎費。
学校へ通うだけで、一体年間いくらかかるのか。
計算機をたたくたび、ヨーロッパの美しい街並みが少しずつ遠ざかっていきました。
妻がヨーロッパで就職できれば長く住める?
それでも、妻の夢は膨らみ続けます。
まずはマルタへ留学する。
ヨーロッパに住んでいる間に、妻が現地で働ける病院を探す。
就職先が見つかれば、家族で長くヨーロッパに住めるかもしれない。
なるほど。
スウェーデンが直接応募だったのに対し、今度はマルタへ行ってから就職先を探す作戦です。
留学から就職。
そして、ヨーロッパ移住。
またしても、壮大な計画が出来上がりました。
まだマルタの場所を覚えたばかりなのに、話だけは永住に近づいています。
留学エージェントへ相談してみた
さすがに自分たちだけで調べるのは難しく、留学エージェントへ相談することになりました。
家族5人で住める家はあるのか。
子どもたちは、どの学校へ通うのか。
一番下の子はキンダーガーデンなのか。
ビザはどうなるのか。
妻は現地で働ける可能性があるのか。
聞きたいことは、山ほどあります。
こうして、エージェントとの連絡が始まりました。
これで一気に計画が進む。
そう思っていました。
返事は遅い。そして質問と答えが合わない
しかし、なかなか話は進みませんでした。
外国のエージェントだったためなのか、返事が来るまでに時間がかかります。
やっと返信が来たと思ったら、聞きたかった内容と少しずれている。
「家族5人で住む場合の費用を知りたい」
と聞いているのに、返ってくるのは別の説明。
そこじゃない。
知りたいのは、そこじゃないんだ。
もう一度質問を送る。
そして、また返事を待つ。
返ってきた内容を翻訳し、意味を考え、さらに質問を送る。
マルタとの時差以上に、話のズレを感じる日々でした。
妻の「留学の呪い」が私にも移り始める
ところが、この頃から私にも変化が起きました。
最初は妻が調べた内容を聞いているだけでした。
しかし、いつの間にか私も、
「マルタ 家族留学 費用」
「マルタ インターナショナルスクール」
「マルタ 家族5人 家賃」
「ヨーロッパ 医師 就職」
などと検索するようになっていました。
あれ?
留学したいのは妻だったはずです。
私は窓際おじさんとして、日本で静かに働き続ける予定だったはずです。
それなのに気づけば、妻よりも留学について調べている。
もしかすると、妻の留学への情熱は夢ではありません。
家族に少しずつ感染していく、呪いのようなものだったのかもしれません。
スウェーデンの次は、マルタ。
マグロしか知らなかった島に、家族5人で暮らす夢が膨らんでいきました。
しかし、マルタ留学にも大きな問題が待っていました。
そして私たちは、さらに別の国を探し始めることになります。
続く。


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